英国詩人ジョン・キーツが今頃の季節を謳った詩の一節     『ナイチンゲール(小夜鳴鳥)に寄す』

ジョン・キーツは、19世紀のイギリスに生きたロマン派の詩人。
貧しい家庭に育ち、早くに家族も亡くし、自分も肺結核のため25歳で早逝しますが、
恋人ファニーとの、はかなくも美しい大恋愛の22~25歳の3年間に、実にイギリスの
歴史的な言葉の至宝とも言うべき、極彩色の花束のような詩群を残しています。
シェイクスピアとキーツのどちらがどちらともいえないほどの詩人です。

これは代表作のひとつで、瞑想的とも言われています。
8節までありますが、今の季節にふさわしい一節をご紹介します。


(訳も2通り載せます)



Ode to a Nightingale         John Keats 

V
I cannot see what flowers are at my feet,
Nor what soft incense hangs upon the boughs,
But, in embalmed darkness, guess each sweet
Wherewith the seasonable month endows
The grass, the thicket, and the fruit-tree wild;
White hawthorn, and the pastoral eglantine;
Fast fading violets cover'd up in leaves;
And mid-May's eldest child,
The coming musk-rose, full of dewy wine,
The murmurous haunt of flies on summer eves.


5
私には、足もとにどんな花が咲き、木々の枝にどんな薫り
豊かな花が咲いているのか、その姿を見ることはできない。
だが、ほんのりと芳香漂う暗闇の中で、このよき季節に
誘われて、草や茂みや生気溌剌(はつらつ)たる果樹があたりに
放っている薫りから、ただそれとなく想像する他はない。
さんざしの白い花も、牧歌に謳(うた)われるエグランタインも、
木の葉に埋もれては忽(たちま)ち凋(しぼ)んでゆく菫(すみれ)の花も、
五月半ばには誇らしげにその初児(ういご)然として
蕾を綻(ほころ)ばせ、甘い夜露に濡れ、夏の夕べに飛び合う
羽虫のたかる麝香(じゃこう)薔薇の花も、ただ感じられるのみだ。


 (岩波書店『イギリス名詩選』平井正穂 訳)                              



5
足下にはいかなる花か、枝々に咲き垂れて香炉をなし
仄(ほの)かにかおる花は何かと 見分けはえず、
芳(かぐわ)しき闇のただ中 美(うま)しきもののいちいちを推し量る
季節に順(したが)う月がおのずから恵みとして
叢(くさむら)を 茂る木立を 野生の果樹を飾る花々―――
ま白き山査子(さんざし) 牧歌を彩る野茨
葉陰に隠(かく)ろいいちはやくあせゆく菫(すみれ)
五月の盛り 先がけて生(あ)れ
咲き初める麝香(じゃこう)薔薇 満々と甘露を湛え
夏の夕べ 寄り集う羽虫の翅(はね)の音(ね)のこもるその花。

 (岩波書店『キーツ詩集』宮崎雄行 訳)
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by silverfountain | 2011-05-15 14:16 | 精神・心への栄養
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