チェーホフのように強くなりたいっ!!!

昨年のジョン・キーツに続き、今年はアントン・チェーホフに恋をしています☆

バリの旅先で読んだ NHKテレビロシア語講座テキスト2004年4月号より・・・・・

どこも切り離せない文章なのですが、長すぎるので抜粋抜き書きです。




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『チェーホフをめぐる旅』 モスクワ(1)   児島宏子



d0231842_18512396.jpgアントン(チェーホフ)の祖父エゴールは農奴だった。農奴は、所有者の間で売買もされた。

エゴールは金をためて一家5人(結果として6人全員)の自由を買い取った。

そのためには、どれほどの勤勉さ、忍耐強さ、賢明さが必要だっただろうか!農奴が置かれた状況を知れば知るほど、自由を求める祖父の強靭な意志には驚かされる。

もちろん、幸運もあっただろう。彼が仕えた貴族地主チェルトコーフの父親はトルストイ主義者になり、彼の娘の身代金不足を「おまけだ」と言って免除したという。

文学から強い影響を受けた時代が始まっていたのだろう。



エゴールは一家の独立、つまり自分の足で立つことを、強力に方向付けた。
読み書きを教え込ませ、三人の息子を裕福な商家に徒弟に出し、チェーホフ家が豊かになることを必死で夢見た。

チェーホフは祖父を 《 信念の上で凶暴な農奴 》 だと言っている。大変深い表現だと思う。その三男を父に持つチェーホフ。自分が受けた辛酸と暴力の記憶が人格に浸み込み、引き継がれることがある。人格といっても複雑、広大でその記憶だけが占めているわけではないが、無自覚の復讐のように受けたものを身内や他人に繰り返すことがしばしば起こる。チェーホフの父も、愛情ゆえとはいえ、その方法は凶暴だった。ことに妻に対しては子供たちに対する以上に暴君だった。


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チェーホフは、あちこちでいつまでもそのことに心を痛め、悲しみ、血を吐くような思いで語っている。そこからの脱出を、闘いを語っている。自分の肉体、血液から“奴隷根性”をたたき出すこと、同じ凶暴さを、人の上に決して立たないことを、非人間性を繰り返さないことを厳しく自己に課し、実現し、それを首尾一貫させた人間。




領主や役人に殴られたエゴールはパーヴェルを殴り、パーヴェルはアントンを殴ったが、アントンは誰をも殴らなかった。それどころか、絶えず多くの人々のことを考えていた。タガンロークの学校や図書館に書籍を送り、メリホヴァには学校を作り、貧しい病人を無料で診察し、助けを求める人々に手を差し伸べた。ロシアの人々を啓蒙することに、どれほど心を砕いたことか!






チェーホフの作品には、その人間性が表裏一体となってにじみ出ている。
それを知れば知るほど、外からは全く見えないチェーホフの言行一致を実現しようとする強固な意志、自分に対する過酷なまでの厳格さなどに、心を揺さぶられる。

自己の内に潜む嫌悪すべきもの、疎ましいものを自覚して、それを追い出すことは簡単ではない。多くの人々が自己正当化し、身内に、他人に、社会に、環境に罪を転嫁させようとする。それも正当な部分もあるだろう。それがひとつの自己保守であり、必要な時期もあるだろう。だが、“そこから脱出する”旅を続け、自己変革を遂げないなら、そのように生きないなら、この人生にどんな意味があるのだろうか。



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どのような人も例外なく、あらゆる時代に、この宇宙で多分、たった一個の存在なのだ。
その、たったひとつの存在が、社会や家庭や、周辺の気分を形成していく。状況を決定していく。

その自分をより正しく、美しい内面を持つものにしていくのは義務ではなく、権利ではないか。これこそ自分でしかできない創造分野・・・ 誰にでもできるクリエイティブな人生を築く生活・・・
 


チェーホフは作品によって何かを教えようとはしなかった。説教しようなんて考えてもみなかった。

そんなことは大嫌いだった・・・ 私もお説教のつもりはまったくなく、ただ自分に言い聞かせているだけ・・・
私にとってチェーホフとの出会いは、そのような人生の旅、自分の人間性を見つめる鏡、他人を思いやる心のゆとりを得るみなもとである。



チェーホフの登場人物たちと出会って、くすっと笑っているときは、自分の気恥ずかしい片鱗を見出したときで、時に泣いている場合だってある・・・






チェーホフは母親にはとても遠慮というか、気遣っていたと伝えられる。
いまなら、‘えーっ、マザコンなんだ’、と軽くあしらわれるかもしれない。

確かに横暴な父に怒鳴られ、痛めつけられていた母に対する哀れみの気持ちは兄弟のなかで最も鋭く感じていたようだ。同じ家庭環境の中にいながら、兄弟というのは、家庭の事情をそれぞれ異なって受け取り、後年になって現れる。その痕跡もひどく違ってくるものだ。

チェーホフの場合でなくとも、そのような現象に驚かされ、とても不思議に思う。

アントンの場合は、兄のアレクサンドルやニコライと違って家庭内現象を“わが家”のことだけにしなかった。“わが母”だけのことにしなかった。




その窓から外を眺め、共通項を見出し、普遍化していった。兄アレクサンドルが父パーヴェルのように家庭の専制君主であることを知ったチェーホフは兄を叱咤激励し、冷静に過去と自分をみつめることを促すような手紙を書いている。

《専制主義と虚偽が母さんの青春を台なしにしたことを、僕は兄さんに思い出してもらいたい。専制主義と虚偽は僕らの少年時代を、思い出すのも恐ろしいほどゆがめた・・・。》 (『 チェーホフの生活 』 池田健太郎) 中央公論社刊 チェーホフ全集16巻より                

                                 こじま ひろこ  ロシア語翻訳家
   





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友人宅の本棚に眠っていた古~いNHKロシア語講座のテキストに大好きな児島宏子さんの文章が載っていて、思わぬ拾い物!!(しかもバリ島で・・・笑)

私も自分自身に言い聞かせたいのです。特に青字の部分は私の信条とも重なり、力が湧きます。


児島さんの訳したチェーホフの本 (未知谷 刊)

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カシタンカ(栗という意味)で、上記写真のうちの一匹。おバカちゃんな犬。













d0231842_18592750.jpgこの挿絵にも惚れてます ♪



















d0231842_18595659.jpgこれは生誕150年で翻訳・出版されたごく最近の短編集。
翻訳者は沼野充義さん(集英社 刊)











d0231842_1984789.jpg四大戯曲
『桜の園』 『かもめ』
『三人姉妹』 『ワーニャ叔父』が有名ですが、
特に短編集がおすすめ。
一市民の生活が色濃く描かれて、ロシアの風土に根ざしたメンタリティ=トスカ(英語で言うところのPathosペーソス)が何ともたまらないのです☆














** お ** ま ** け **


「人間には他者に対する義務のみでなく、自分の中に宿る精神にも義務がある」 
                                          トルストイ



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トルストイと一緒のチェーホフ
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by silverfountain | 2011-08-10 19:18 | 精神・心への栄養
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