《 詩の蜜酒 》

神話伝説

北欧神話には、詩人にすばらしい詩の才能を授ける不思議な「詩の蜜酒」が登場する。賢いクヴァシルが殺され、搾り取られた彼の血が蜂蜜と混ぜられ、醸されて出来上がった。巨人が隠匿していたところ、オーディンが策略を駆使して蜜酒をまんまと盗み出し、神々の国へ運び出して、詩人に分け与えるようになったという。
現実でもブドウの栽培が難しい北欧諸国では、ワインではなく蜂蜜酒がよく飲まれている。(Wikipedia)


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ちょっと長いのですが再話を見つけたので抜き書きを開始しました。面白いので大人の読書のお楽しみに・・・


d0231842_8304811.jpg『北欧神話』
K・クロスリイーホランド
山室静・米原まり子訳   青土社
【六、 詩の蜜酒】

アース神族とヴァン神族が戦いをやめて、永遠の平和のための条件を決めた時、間が未と女神たちは全員、一人ずつ大きな壷の中へつばきを吐き込みました。これは彼らの友情のあかしでした。誰もそのことを一瞬たりとも忘れないようにと、アース神は心から願っていましたので、壷を得ると、彼らはそのつばきから一人の人間をこしらえました。

彼の名前はクヴァシルといいます。彼は火と氷が最初にギンヌンガガップで出会った時以来の、九つの世界のすべての事柄と神秘にのめりこんでいました。彼は何でもよく知っていましたから、どんな神も人も巨人も小人も、彼に質問をしたり意見を求めたりしても、後悔するようなことは決してありませんでした。そしてクヴァシルがどこへ出かけたとしても、彼が来るという知らせはそれより前に届いていました。どこか遠くの農場や小村に到着しても、みんな裁縫や塩づけや草刈りや剣術をするのをやめました。子供たちでさえ騒ぐのをやめて、彼の言葉に耳を傾けたのです。

彼の秘密とは何だったのでしょう?それは彼の豊かな知識にあると同様、彼のやり方にもありました。事実についての質問には、彼は簡単な事実で答えました。でもクヴァシルに意見を求めるということは――どう言えばいいでしょうね?どう思います?どうすればいいのでしょう?

――つまり、いつも直接的な答えを得るということを意味してはいないのです。

彼はゆったりとした衣服を着てくつろぎ、しばしば瞳は閉じられていました。そして困ったことや悲しみごとについての詳しい説明を、もの柔らかで、まじめな、無表情の顔をしてよく聞きとりました。すべてがわかると、彼はそれをもっと大きなわく組みの中へ置いてみせました。彼は決して押しつけたり、強要したりはしません。むしろ暗示するのでした。しばしば質問に対しては、ほかの質問で答えれば十分だったのです。

それでも神々と人間と巨人と小人は、自分たちの質問に答えるために彼は助けてくれたのだと、そう感じさせられたものです。


クヴァシルの知恵についてのうわさは、たちまち、最も不愉快な兄弟である小人のフィアラルとガラールの耳に届きました。彼らの興味はやがてねたみに、ねたみはエネルギーに変わりました。なぜなら彼らは、自分自身でそれをほしいと思うことなしには、どんな物でもほめることはできなかったからです。

二人はクヴァシルを宴会に招きました。それは地下の彼らのほら穴で行なわれ、彼らとたくさんの小人が集まるものでした。いつものようにクヴァシルは承諾しました。テーブルは、でこぼこした岩の長い石板。床は細かい砂。壁かけは、垂れさがっている鍾乳石でした。話の内容はおもに、損と得、それにけちな復讐についてでした。とはいえ、食べ物と、全部ハンマーで鍛えられた黄金で作られた食器類は、かなり好ましいものでした。

宴会のあとで、フィアラルとガラールは、クヴァシルに内密な話をしたいと頼みました。クヴァシルは二人について薄暗い部屋に入りましたが、それが間違いだったのです。二人の小人は袖の中に隠していたナイフを出すと、ただちに賢い人の胸に突き刺したのでした。彼の血は身体からほとばしり出ました。フィアラルとガラールは、その血をすべて、二つの大きな壷のソンとボドン、またオードレリルという大釜に受けました。クヴァシルの心臓の鼓動は止まり、血の気の引いた蒼白な身体は、大地の上にじっと横たわっていました。

しばらくして、アース神がクヴァシルの安否を尋ねるために使者をよこした時、二人の小人は、こういう答えを返したのです。あの人は不幸にも、彼自身の知識で窒息してしまったのです。なぜなら、九つの世界には、彼に並んで匹敵することができるほど博識な者は、誰ひとりいなかったからです、と。

でもフィアラルとガラールは、自分らがやったことを大いに喜んでいたのです。クヴァシルのでいっぱいになった壷と大釜の中に、彼らは蜂蜜をつぎこんで、ひしゃくでかき混ぜました。すると血と蜂蜜はすばらしい蜜酒となり、それを飲んだ人は誰でも詩人か賢者になるのでした。小人たちは、蜜酒を自分たちだけのものとして秘密にしておきましたので、ほかの誰も味わうことはありませんでしたし、うわさを聞くことをさえしなかったのです。



・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・

ある日、小人の兄弟は、巨人のギリングとその奥さんという、ぞっとするようなお客をもてなしていました。ほどなく彼らは口げんかを始めて、フィアラルとガラールはますます悪意に満ち、憎悪であふれてきました。彼らはギリングに提案しました。海辺のそよ風を楽しんではどうですか、と。そして、それぞれでオールを持って、ミッドガルドを囲む海のはるか遠くまで漕ぎ出したのでした。そこで小人たちは、半分水中に隠れているぬるぬるした岩に、船をぶつけたのです。ギリングは驚いて、船べりにしっかりとつかまりました。彼の驚きは、もっともなものでした。船は浸水して、ひっくり返ってしまったのですから。ギリングは泳ぐことができませんでした。だから、それがギリングの最後だったのです!二人の小人はごきげんで船を立て直し、歌いながら家へ漕ぎ帰りました。

フィアラルとガラールは、ギリングの奥さんに何がおこったのかを説明しました。
「事故だったんです」とフィアラルが言いました。
「もしあの人が泳げさえしたらねえ」とガラールは悲しそうに言いました。

ギリングの奥さんは、ほら穴に坐りこんで泣いて泣いて泣きました。二人の小人は、彼らの足首のまわりをぬらしている、なまぬるい涙の感触が気に入りませんでした。フィアラルは彼の兄弟にささやきました。
「いい考えがある。石臼を見つけろよ。そして、ほら穴の入り口の上のあたりで待っていてくれよ」

ガラールは立ちあがって外へ出て行きました。するとフィアラルは客を接待している者らしく、彼女のためにわきへ寄りました。そうやって女巨人が日の光の中へ歩み出した時、ガラールが彼女の頭上に石臼をころがり落としたのでした。

「あの女が泣き叫ぶのには、まったくうんざりしていたんだ」とフィアラルは言いました。


ギリングとその妻がヨーツンヘイムに戻って来なかったので、息子のスッツングが彼らを捜しに出かけました。彼は小人たちの陰気な顔を見つめながら、その長ったらしい話を聴いていました。それから、二人のえり首をぐっとつかまえたのです。

両手に二人ずつ持って二人をぶら下げながら、スッツングは腹立たしげに、彼自身にさえ深すぎるほどのところまで、一マイルも海の中へ進んでいきました。そこで彼は、フィアラルとがラールを岩礁の上に降ろしたのです―――ちょうどそのとき水の上に出ていたずぶぬれの岩の上に。「おまえたちが泳ぎ戻るには、あまりに遠すぎるな」と彼は言いました。「あまりに遠すぎる。そこで、潮が満ちてきた時は・・・・・」

フィアラルはガラールを見ましたが、兄弟は二人とも顔をしかめました。
「提案があるのですがね」フィアラルが言いました。
「こうなったからには、あなたにわたしたちの最も大切な宝物を喜んでさしあげましょう」と、ガラールが言いました。

それからフィアラルは、彼らの蜜酒について、その起源とききめの両方を、言葉を尽くして話してきかせたのでした。

「わたしたちの命を助けてください。そうすればそれをあなたにさしあげます」と、ガラールが言いました。「合点だ」とスッツングは言いました。

そこで、スッツングは二人の小人をほら穴へ戻してやったのです。えり好みができないのははっきりしていましたから、彼らはクヴァシルのでこしらえた霊酒を譲り渡しました。巨人はソンを一方の手に、ボドンをもう一方の手に、オードレリルはわきの下にかかえて、ヨーツンヘイムに帰って行きました。彼はまっすぐに彼の住むフニット山に、その貴重な液体を運びました。そして山の中心部に岩を削って新しい部屋を作るとそこに三つのかめを隠したのです。スッツングは彼の娘グンレズに、一つの仕事を命じたのでした。

「昼間は蜜酒の見張りをしろ。夜もその見張りをするんだ」






つづく (残りあと5分の3)





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《 詩の蜜酒 》 とは別に 《 はちみつ酒 》 という項目もあります。

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*ポーランドには ミュート・ピトニィ という蜂蜜酒があるそうです。

http://ja.wikipedia.org
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by silverfountain | 2011-08-17 12:52 | 精神・心への栄養
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