日本の報道機関も、少しはイギリス BBC に倣ってほしい

【BBC ― 岐路に立つ国民の宝】

愛称は「おばちゃん」
 
 BBC(British Broadcasting Corporation)は公共放送で、「Auntie(おばちゃん)」の愛称で親しまれている。イギリスには昔から「おばちゃんが一番よく知っている」という言い方がありこれに準拠した愛称で、その報道・教育・娯楽番組は質の高さを誇り、国民の知的、文化的生活をより豊かにするメディアとして国民から絶大の信頼を得ている。




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 とくに民主主義に欠かせない情報を提供する報道番組に関しては、正確な事実を迅速に伝えるという基準と並んで、独立・不偏(Independent, Impartial)が大きな柱となっている。
 この独立・不偏は、日本の報道に求められる「中立」とはニュアンスが異なり、権力からの圧力を受けずBBC自身の判断で番組を制作するという姿勢を意味している。その際BBCは何が正しく何が間違っているかは言わない。事実を公正に提示して判断は国民にゆだねる。対立するどちらの側にも与(くみ)せず、一方の主張を取り上げたら必ず他方に反論の機会を与える。この掘り下げた調査報道と客観性、そして何よりも視聴者の利益になる報道をという基本的なジャーナリズムの精神が国民から熱い支持を得ている所以であろう。

 しかし、独立不偏の立場を貫くことが難しいこともたびたびある。
 サッチャー首相はフォークランド戦争の際、BBCが「わが軍」と呼ばずに「英国軍」と三人称で通したことについて、愛国心が足りないと非難したり、レポートがアルゼンチン寄りだとして不快感を示したりしたが、BBCは屈しなかった。
 
 労働党政権下でも権力が報道をうとましく思うのは同じで、ブレア首相は閣内に新たに特別報道官職(spin doctor スピン・ドクター)を設置してメディアをコントロールしようとした。とくにイラク戦争参戦を正当化する「大量破壊兵器の存在」に関する情報操作を巡ってBBCと激しく対立。戦争終結後、これを検証する独立調査委員会が設けられたが、この委員会の委員長もまた首相が任命したもので、その結果BBCは経営委員会委員長、BBC会長というトップ二人の辞任を余儀なくされた。

 この時おこなわれた世論調査では、真実を伝えるという点で、BBC を支持する数字が政府を支持する回答者の三倍に達し、新聞には連日「BBC負けるな」「政府は報道に干渉するな」「BBCを守ろう」といった投書や識者の意見が掲載された。このことは、公共放送サービスは国営放送ではなく、公共の財産であり、国民のためのものであることを、国民自身が十分認識しているっことを意味する。 
 
 報道番組のみならず、自然を記録するドキュメンタリーやドラマ、語学習得など教育番組などにもすぐれたものが多く、海外にも広く販売されている。


 
 BBC以外の番組を含めた、全チャンネルのTV番組の人気トップ3は、一位「イーストエンダーズ(連続ドラマ)・クリスマス・エピソード」、二位「ドクター・フー・クリスマス・スペシャル」(ともにBBC)、三位「ラグビー・ワールドカップ・ファイナル」(ITV, 商業放送の一つ)。
(※注:イギリスでは日本のような視聴率は使わず、視聴者数で測る。一位は1400万人強。) 




社会の変化に伴うBBCの課題
 
 デジタル技術の導入、コンピュータとの競合、人々の趣向の多様化など社会を取り巻く劇的な変化の中で、BBCもまた変わることを余儀なくされている。

 2007年には大幅な組織改革があった。これまで経営委員会が監督業務を、執行機関である理事会以下職員が番組制作業務をおこなってきたが、経営委員会はどちらかと言えばBBCの擁護者的色彩が濃厚だった。これがBBCトラストという独立した機関となり、国民の代理として規制・監督の強化に当たることとなった。

 また1927年以来、BBCは国王特許状という特別な法律で保護されてきたが、2016年以降に関してはこの特許状そのものが見直されることとなった。さらに、日本の受信料に当たるライセンス料(2008年現在、年間139.50ポンド。不払いの場合は1000ポンドの罰金が科せられる)も、これを商業放送と分かち合うべきか、などが検討課題となっている。

 デジタル化は、2012年までに完了する予定である。デジタル化が大量のチャンネルを生み出し、放送の極度の細分化が進むなかで、「公共放送」はどうあるべきかなどの議論も始まっている。BBCは今後とも特権的地位を享受できるとは限らない状況にあるのだ。そのようななかで、制作現場では3000人以上の職員が解雇され、有名タレントへは膨大な出演料が支払われ、「やらせ」や大きなミス、モラルの低下、番組の低俗化が問題視されている。

 これで従来の質の高さを維持できるのか、ライセンス料に値するのか、国民に支持されるBBCであり続けることができるのかなど課題は山積している。国民の宝「アーンティ」の将来の姿を見極めるには、まだしばらく時間が必要であろう。



「無冠の帝王」海外放送

 BBCの定評を高めているもうひとつの要素が海外放送である。
 海外放送は1932年、当時イギリスが権益を握っていた中東向けのラジオ英語放送から始まった。外交政策の一環という位置づけから、ライセンス料とは別の政府予算が財政源となっている。しかし真の国益とは、政府との間に距離を置き、正確な情報を送り続けることにある、というBBCの基本姿勢は海外放送にも適用されている。その後アラビア語を皮切りに、ターゲット地域の言語での放送も始まり、多いときには、日本語を含む40以上の言語で放送がおこなわれた。(現在は32言語による放送がおこなわれている。テレビの海外放送は1991年から始まった)。

 第二次世界大戦中、敵方ドイツ軍は正確な戦況を得るためBBCラジオを聞いていたという。またロンドン亡命中のフランスのド・ゴール将軍は、BBCを通じてフランス国民を鼓舞する演説をおこない、これが勝利に結びついた。

 さらに、冷戦下、とくに共産圏崩壊の折には、英語放送だけでなく、ロシア語を初め旧共産諸国の言語で世界情勢を伝え続け、その国の国家統制下にあるメディアでは取り上げられない情報を不眠不休で流し続けた。この功績を認められ、1989年にはノーベル平和賞の候補にまで挙げられたが賞は逸した。しかし「無冠の帝王(Unsung Hero)」としての地位は揺るがず、今日でも全世界、とくに報道の自由がない国々を中心に日夜放送が続けられている。

                                          (高階玲子)



出典:
『イギリス文化55のキーワード』 (ミネルヴァ書房)
<第3章 暮らしを彩るモノたち>






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と言っても、課題山積はいずこも同じですが、少なくとも国民にも、職員にもまだジェントルマンの精神の片鱗は残っているのが見えます。
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by silverfountain | 2011-09-04 11:01 | 精神・心への栄養
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